空母アドミラル・クズネツォフの近代化は先延ばしされている

2014年2月初頭、ロシア航空母艦揚陸艦を設計している「ネフスキー計画設計局」のトップであるセルゲイ・ウラソフ氏が『ロシア通信社ノーボスチ』の独占インタビューを受けました。

『ロシア通信社ノーボスチ』より
2014年2月3日12時00分配信
【「ネフスキー計画設計局」総取締役セルゲイ・ウラソフ氏へのインタビュー】

この中から、ロシア海軍重航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」に関する箇所を抜粋。
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インタビュアー(アンナ・ユージナ)
何故、私達の唯一の航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」は、修理に置くことが出来ないのでしょうか?

セルゲイ・ウラソフ
(ロシア)海軍は修理を撤回するつもりは有りませんでした。少なくとも今後6年間は。
今、航空母艦地中海で任務を遂行しており、奇しくも、最近海軍旗掲揚から23周年を迎えました。
工場修理は、各艦が全て10年ごとに置かれます。
「クズネツォフ」は、このような修理を1度も経ておりません。
同艦がドックへ入渠したのは事実ですが、艦底の清掃、艦底の外装部分の修理といった細かな事しか行なわれておらず、根本的な修理は行なわれていません。

このように修理が行なわれないのは、以前には、ロシア製機器及び設備の信頼性に在るなどと言われていたものです。
むろん「クズネツォフ」の近代化は必要です。
ですが、同艦が長らくドックに入渠していれば、ロシアの海洋飛行士は、その技量を失ってしまいます。

新たな航空母艦の設計が発注されれば、(この状態から)脱することが出来るでしょう。
(クズネツォフの修理の)引き伸ばしは意味が有りません、永遠の機器など存在しないのですから。

それは深刻かつ複雑な作業です。
通常の大規模修理には、3-4年が必要です。
「クズネツォフ」は、電波電子機器、航海システム、多くの航空複合体ボイラー、空調システムの交換と、居住条件の改善が必要です。
ところで、今、同艦においては、士官室が船員の為の食堂となっており、これをビュッフェに作り変えます。
それは全て進行しておらず、全て実行されていません。
もしも同艦が「セヴマシュ」に居れば、かなり話は違っていたでしょうに。

少なくとも、今、私共の航空母艦は良好な状態に置かれており、正常に運航されています。
時として、(クズネツォフの)大多数の階層が放置されているなどという馬鹿げた事を書く奴が居ますけどね、それは間違っていますよ。


[重航空巡洋艦アドミラル・クズネツォフの経歴(ロシア国防省公式サイト)]

1990年12月25日に当時のソヴィエト連邦海軍へ引き渡され、翌1991年1月20日に海軍旗初掲揚式典(就役式典)を開催して赤旗北方艦隊へ正式に編入された重航空巡洋艦「アドミラル-フロータ-ソヴィエツカヴァ-ソユーザ・クズネツォフ」は、同年12月末に黒海から北方艦隊基地へ回航されました。

1990年代には殆どウラグバに係留されており、1995年12月から翌1996年3月まで地中海への遠距離航海を行なった以外には滅多に外洋へ出る事も無く、資金不足で整備や修理も満足に行なわれませんでした。
[1993年のウラグバ基地]
[空母クズネツォフ地中海遠征(1996年初頭)]

資金不足の為、修理は20パーセント程度しか進まず、1990年代末には満足に動く事すら出来なくなりました。

しかし2000年以降、ウラジーミル・プーチン政権下で修理予算が拠出される事になり、ムルマンスク艦船修理工場及びロスリャコヴォ村大型浮きドックで修理が行なわれました。
修理を終えた「アドミラル・クズネツォフ」は2004年秋に現役復帰し、北東大西洋への遠距離航海を実施しました。
[クズネツォフ復帰まで~1990年代末~2004年~]

翌2005年8月に北東大西洋への遠距離航海を行なった後、翌2006年にはロスリャコヴォ大型浮きドックへ入渠し、着艦拘束装置の交換などの修理が行なわれました。
[浮きドック上のクズネツォフ]
[浮きドック上のロシア海軍空母アドミラル・クズネツォフ(2006年)]

2007年12月には2度目の地中海遠征へ出発しました。
[空母アドミラル・クズネツォフ第2次地中海遠征(2007年12月~2008年2月)]


2008年2月に遠征から戻った後、約7ヶ月間掛けて修理が行なわれました。

『RBK』より
2008年12月8日12時59分配信
【艦船修理センター「ズヴェズドーチカ」は航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」の修理を完了した】

「アドミラル・クズネツォフ」は2008年11月末頃まで7ヶ月間掛けて「ズヴェズドーチカ」で修理が行なわれ、主動力装置(つまり蒸気タービンエンジン)の更新、ボイラー機器、空調システム、航空機用昇降機の修復、ケーブル配線の交換、巡洋艦の各区画の兵装システムの復旧作業が実施されました。

「更新」というのは、要するに、エンジンを丸ごと交換したわけでは無いが、パーツを大幅に入れ替える「リビルド」を行なったという事です。


その後、2008年12月から翌2009年3月まで3度目の地中海遠征を実施しました。
[空母アドミラル・クズネツォフ第3次地中海遠征(2008年12月~2009年3月)]

2010年6月末にロスリャコヴォ大型浮きドックへ入渠し、9月上旬まで修理が行なわれました。

2011年12月から2012年2月まで4度目の地中海遠征を実施しました。
[空母クズネツォフ第4次地中海遠征]

2012年の春から8月下旬までムルマンスク艦船修理工場で修理が行なわれました。
[空母アドミラル・クズネツォフはオーバーホールを終えた]

2012年9月からバレンツ海で何度か演習を実施しました。
[空母アドミラル・クズネツォフ航空隊の訓練が開始された]

2013年春~初夏にもムルマンスク艦船修理工場で修理が行なわれました。
[空母アドミラル・クズネツォフは2013-2014年に遠距離航海を行なう]

その後、2013年9月から11月までバレンツ海で何度か演習を実施しました。
[重航空巡洋艦アドミラル・クズネツォフ近影]
[空母アドミラル・クズネツォフの艦載ヘリコプターは夜間着艦訓練を実施した]

そして同年12月に5度目の地中海遠征へ出発しました。
[空母アドミラル・クズネツォフ第5次地中海遠征(2013年12月-)]


1991年12月末にムルマンスク方面へ回航されて以来、「アドミラル・クズネツォフ」は、艦船修理工場の岸壁或いは浮きドックでの修理は何度も行なわれていますが、艦船修理工場或いは造船所乾ドックへ入渠した事は一度も有りません。
ロシア国内で「アドミラル・クズネツォフ」が入渠出来る乾ドックを有する造船所が限られているという事情も有りますが。
(ロシア北洋方面では、セヴェロドヴィンスク市「セヴマシュ」造船所のみ)

この為、何れは造船所乾ドックへ入渠して本格的な大規模修理や近代化改装を行なう必要が生じてきます。

「アドミラル・クズネツォフ」に関しては、以前から近代化改装の話が何度も出ていました。
[空母アドミラル・クズネツォフ近代化計画]
[重航空巡洋艦アドミラル・クズネツォフは2014年から近代化改装を開始する]

しかし昨年(2013年)末、そのような具体的な計画は無い事が造船業界側から明らかにされました。

[空母アドミラル・クズネツォフの近代化改装は計画されていない]
[空母アドミラル・クズネツォフの近代化は妨げられている]

しかし、各種機器を交換する必要が有るとは指摘されています。


今回、「アドミラル・クズネツォフ」を設計したネフスキー計画設計局のトップであるセルゲイ・ウラソフ氏は、交換が必要な機器について具体的に述べています。

それは、同艦の電子機器(レーダー)、航海機器、航空管制関連機器、ボイラー、空調システムです。
更には、居住条件の改善として、ビュッフェの設置を挙げています。

現在、ロシア連邦軍の兵舎の食堂にビュッフェを導入する計画が進行中ですが、これを「アドミラル・クズネツォフ」にも導入しようというわけです。
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「アドミラル・クズネツォフ」に関しては、以前、近代化改装において機関を原子力に換装するなどという話まで飛び出しましたが、今回、ウラソフ氏は、「ボイラー」は交換するとは言っていますが、タービン機関まで交換するとは一言も言っていません。
上記のように、「アドミラル・クズネツォフ」は2008年にエンジンリビルドしています。

インドに売却された重航空巡洋艦「アドミラル・ゴルシコフ」改め航空母艦「ヴィクラマーディティヤ」も、ボイラーは新型に交換しましたが、蒸気タービンエンジン自体は交換しておらず、こちらもリビルドされています。
[重航空巡洋艦アドミラル・ゴルシコフ改め航空母艦ヴィクラマーディティヤはインド海軍へ引き渡された]
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「アドミラル・クズネツォフ」の近代化を実行するのならば、これと同様になるという事です。

その他の交換される機器も「ヴィクラマーディティヤ」と重複する部分が多く、同艦で導入された新型機器を「アドミラル・クズネツォフ」にも導入しようという事でしょう。
「ヴィクラマーディティヤ」「アドミラル・クズネツォフ」も、ネフスキー設計局が設計を手掛けておりますし。

これが、「アドミラル・クズネツォフ」「近代化」という事になるようです。
具体的な実施時期は定まっておらず、先送りされているようですが・・・

更に付け加えると、ウラソフ氏は、現時点においては「アドミラル・クズネツォフ」は良好な状態に置かれていると述べており、同艦が不調だという事に関しては否定しています。

しかし、今後も長期に渡り運用するつもりならば、大規模修理(近代化改装)を実施しなければならないという事でしょう。
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