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ロシア海軍の地対艦ミサイル"バル"(ウラン)は射程距離を300km以上に延長する

『イズベスチヤ』より
2021年11月30日0時0分配信
【「バル」の指向:ミサイルは黒海とバレンツ海のコントロールを得る】

新たな長距離弾は北極とクリミアの安全を保障する
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見えない超遠距離対艦ミサイル北極クリミアをカバーする。
延長された飛翔距離を持つミサイルで武装する最初の複合体「バル」は、北方艦隊黒海艦隊沿岸旅団へ受け入れられる。
これは、世界で最も効果的な対艦システムの1つである。
その主砲はミサイルKh-35ファミリーであり、その打撃の撃退は事実上不可能である。
以前、Kh-35の射撃距離は200キロメートルを超えなかった。
ミサイルの新たなモデルは、数百キロメートル離れた目標の撃破を可能にする。
更新された弾のお陰により、「バル」の能力は急激に増加する。
沿岸複合体は、NATO艦の訪問が最近より頻繁になった黒海バレンツ海の大部分を効果的にコントロールできると専門家は指摘した。

[屋台骨の防衛]
軍当局
の情報提供者が『イズベスチヤ』へ話したように、黒海では、飛翔距離が増加したKh-35ミサイルを持つ近代化された複合体「バル」が、クリミアに配置されている沿岸ロケット旅団へ初めて受け入れられる。
新型は更に、北方艦隊の連合部隊の1つでも軍備として採用される。
これと同時に、新たな弾を持つ沿岸ミサイル複合体は、艦のみならず地上目標を撃破できる:このような物体への正確な打撃は新たな照準システムにより保障される。
ミサイルは非常に低い高度を飛翔するので、潜在敵のレーダーにとっては事実上見えない。
加えてこれは、アクティブ電波電子対策の条件下でも動作できる。

情報提供者によると、現在、飛翔距離が延長されたミサイルKh-35を持つ沿岸ミサイル複合体「バル」の試験が行なわれている。
今年の発射は、既に黒海艦隊北方艦隊で実施されている。
更新されたKh-35の飛翔距離は300キロメートルを大幅に超えた。
新たな弾の正確な戦術-技術的特性は知られていない。
現在、このファミリーのミサイルは120~260キロメートルの飛翔距離が可能である事が知られている。

軍基地の防衛の為の沿岸ミサイル複合体の活動は、現在、海軍により積極的に取り組まれている。
軍当局は11月29日、アメリカ合衆国ロケット駆逐艦「アーレイ・バーク」の海域への進入を背景にして黒海艦隊沿岸ミサイル複合体「バル」及び「バスチオン」が参加する演習を実施したと発表した。
演習は成功と認められた事を国防省は指摘した。

沿岸ミサイル複合体大隊は沿岸防衛の屋台骨と考えられており、新たな遠距離ミサイルの登場は、その信頼性と有効性に影響を及ぼすと軍事専門家ドミトリー・ボルテンコフ『イズベスチヤ』へ話した。
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「今、黒海地域の状況は緊迫しており、クリミアの優先順位の強化はとても論理的に思えます」
彼は考える。
「先日、アメリカ合衆国の駆逐艦アーレイ・バークが海域へ入りました。
その前には、指揮艦マウント・ホイットニーと駆逐艦ポーターが居ました。
これらの訪問は、ロシア国境の近くでのアメリカ合衆国とNATO諸国の空中無人機と偵察航空機の行動の活発化を伴いました。
バレンツ海では、北大西洋同盟の積極的な活動は著しく低いのですが、北方には信頼できるカバーを必要とするロシアの原子力水中ロケット艦が駐留しています」


遠距離ミサイルの登場により、いわゆる制限ゾーンが拡大し、敵にとってはより飽和かつ危険になると専門家は指摘した。

「このようなゾーンへ敵艦は入らない方が良いでしょう、何故ならば、破壊される可能性が高いですからね」
ドミトリー・ボルテンコフ
は説明した。
「我々の沿岸からもっと遠いミサイルの発射は、打撃兵装を持つ艦が境界線から離れなければならない原因となります」

[同時に「バスチオン」と]
Kh-35Uミサイル
は、初のロシアの統一弾であり、その使用は様々なタイプの搭載手段から可能である。
以前は、航空機、ヘリコプター、打撃艦、沿岸複合体の為に別々のタイプのミサイルが作成されていた。
このような種類の兵器を別々に作成するのは、金の掛かる道楽である。
コストを最適化する為、地上設置、航空搭載機、そして必要に応じて戦闘艦潜水艦からも使用できる統一ミサイルの作成が決定した。

ミサイルは最大限共通化される。
この弾の搭載手段は、幾つかのコルベット級の水上艦シリーズ、ロケット艇、航空機Su-24、Su-30、MiG-29KR/KUBR、Su-35S及び対潜航空機Tu-142、更にはKa-27、Ka-28、Ka-52Kヘリコプターである。
これは、第5世代将来戦闘機Su-57の機上兵装構成として試験が行なわれている事が知られている。
加えて、この弾はプロジェクト12341「オヴォード」小型ロケット艦でも使用が可能である。

「バル」は2008年に海軍沿岸部隊で軍備採用された。
沿岸ロケット旅団は海岸、ロシア海軍の海軍基地、戦略的に重要な意義を有する群島及び海峡を保護する。

複合体は高機動性であり、軍事行動開始の脅威が発生した場合、沿岸地域へ迅速に展開し、擬装される。
事前の打撃で隠蔽されたミサイルの破壊は殆ど不可能である。
隠蔽された発射装置は攻撃の直前に移動する~戦闘の展開には10分以上掛からない。

沿岸ミサイル複合体の戦闘使用戦術は常に改善されている。
沿岸ミサイルは、沿岸ミサイル複合体の単一情報回路へ組み合わされる航空機、ヘリコプター、艦、潜水艦、無人飛行装置での目標発見により助力を得る。

『イズベスチヤ』は、「バスチオン」「バル」戦闘艦無人機との綿密な連絡により動作した今年の一連の演習について報じている。
操縦中のドローンは、仮想敵艦集団を発見し、沿岸へ座標を送り、ミサイル打撃の精度を保障した。

更に海軍は、定められた戦略的方向での強力な沿岸防衛の作成へ取り組んでいる。
最近、数百から数千キロメートルの距離に渡る沿岸ミサイル複合体「バル」及び「バスチオン」の迅速な再配置の可能性が点検された。
その段階の1つで、バルト海ロケットムルマンスク及びアルハンゲリスク州へ機動的に移送され、北方艦隊の部隊と共に仮想敵の打撃を撃退した。
この時、同時にバルト海から太平洋艦隊への沿岸ミサイル複合体の強化の可能性も点検された。



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対艦ミサイル「ウラン」は、元々は空対艦ミサイルKh-35(Х-35)として試作設計局『ズヴェズダー』の手により1977年に開発がスタートしました。
1984年、艦載型「ウラン」の開発が決定されました。

「ウラン」は、先ず初めに黒海艦隊ロケット艇R-44で試験が行なわれました。
[新兵器試験用ミサイル艇R-44]
最初の発射試験は1985年11月5日に行なわれましたが不成功に終わり、1987年1月29日に初めて発射試験に成功しました。

「ウラン」は、1980年代後半に建造された旧東ドイツ海軍ロケット艇「ザスニッツ」にも搭載されました。
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しかし東ドイツ西ドイツに併合された後、「ザスニッツ」「ウラン」は撤去されました。

ソ連邦解体は資金不足で開発は停滞し、1992年から1997年には4度の発射試験しか実施できませんでした。

そこでロシア海軍へ採用される具体的な見込みの無い「ウラン」インドが目をつけ、1994年にはインドへの供給契約が締結され、1996年から引き渡しが開始されました。

ロシア海軍の方も2003年7月から国家受領試験が開始され、2004年秋にロシア海軍へ制式採用されました。

ロシア海軍では、プロジェクト11661警備艦「タタールスタン」、プロジェクト11540警備艦「ヤロスラフ・ムードルイ」、そしてプロジェクト20380コルベット、近代化された小型ロケット艦「スメルチ」に搭載されています。



沿岸ミサイル複合体(地対艦ミサイル)「バル」は、亜音速艦対艦ミサイル「ウラン」/空対艦ミサイルKh-35の地上発射ヴァージョンであり、2008年にロシア海軍へ制式採用されました。

現在では、ロシア海軍の全ての方面艦隊(北方艦隊、太平洋艦隊、黒海艦隊、バルト艦隊、カスピ小艦隊)へ配備されています。

[黒海艦隊]
第11独立沿岸ロケット旅団(ウタシュ)
第15独立沿岸ロケット旅団(セヴァストーポリ)

[太平洋艦隊]
第72独立沿岸ロケット旅団(スモリャニノヴォ)
第520独立沿岸ロケット砲旅団(ペトロパヴロフスク・カムチャツキー、クナシル島)

[バルト艦隊]
第25独立沿岸ロケット旅団(ドンスコエ)

[北方艦隊]
第536独立沿岸ロケット旅団(セヴェロモルスク)

[カスピ小艦隊]
第51独立沿岸ロケット大隊(カスピースク)
第847独立沿岸ロケット大隊(カスピースク)


「バル」(Kh-35ウラン)の射程距離は、初期型で120km、改良型のKh-35Uで260kmになりますが、最近、更なる射程延長型(射程300㎞以上)が開発され、先ずは黒海艦隊北方艦隊へ配備されるとの事です。
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