ロシア海軍の超音速対艦ミサイル「オーニクス」の射程距離は1000kmに増大する
- カテゴリ:ロシア海軍の艦載兵器

『タス通信』より
2022年12月8日9時6分配信
【情報筋:超音速ミサイル「オーニクス」の飛翔距離は1000キロメートルまで増加する】
モスクワ、12月8日/タス通信
海上発射及び地上発射の超音速有翼ミサイル「オーニクス」の飛翔距離を増大させる作業は積極的に進められている。
『タス通信』は軍当局に近い情報筋より伝えられた。
「近い将来、超音速のオーニクスの飛翔距離は1000キロメートルまで増加する事になるでしょう」
彼は説明した。
『タス通信』は、この情報を公式に確認していない。
以前に『タス通信』は、ロシアが作成する極超音速ミサイル「ツィルコン」の為の移動式発射装置は、沿岸ミサイル複合体「バスチオン」や水上及び水中の搭載艦で使用される超音速ミサイル「オーニクス」も発射できると報じた。
製造社によると、「オーニクス」の輸出バージョン(ミサイル「ヤーホント」)の最大射程は、今日において300キロメートルである。

ミサイルの最大速度は高高度で音速の2.5倍、通常弾頭の重量は250キログラム。
ミサイルは、レウトフ科学生産合同『機械製造』(コーポレーション『戦術ミサイル兵器』へ加入)により開発され、製造されている。
これらは既に、シリアのテロリストの地上目標及びウクライナ特殊軍事作戦中の目標へ打撃を与える為、何度も成功裏に使用されている。
【株式会社「軍事産業団体・科学生産合同『機械製造』」】
[新世代超音速対艦ミサイル「オーニクス」(ヤーホント)]
汎用対艦有翼ミサイル「オーニクス」(輸出名「ヤーホント」)の開発は1981年6月5日に正式決定され、1982年3月10日には科学生産合同『機械製造』による予備設計案が採用されました。
潜水艦による水中発射試験を行なう為、プロジェクト670M原子力潜水艦K-452が1986年6月25日から1992年7月10日までプロジェクト06704改造を実施しました。

K-452(1992年6月3日からB-452)は、1992年から1998年まで「オーニクス」ミサイルの発射試験に従事しました。
水上艦による水上発射試験の為にプロジェクト1234小型ロケット艦「ナカト」が改造され、1996年から発射試験が行なわれました。
[「オーニクス(ヤホント)」試験艦「ナカト」]

「ナカト」による「オーニクス」の発射試験は、1990年代末に資金難で中断された後2000年代初頭に再開され、「オーニクス」は2002年9月23日付でロシア海軍へ軍備採用されました。

一方、「オーニクス」搭載艦として、プロジェクト885「ヤーセン」原子力水中巡洋艦とプロジェクト22350フリゲート(アドミラル・ゴルシコフ」型)の建造も始まりましたが、財政難などにより工事は遅延し、就役は大幅に遅れました。
(885の1番艦「セヴェロドヴィンスク」は2014年6月17日就役、22350の1番艦「アドミラル・ゴルシコフ」は2018年7月28日就役)
885原子力水中巡洋艦「セヴェロドヴィンスク」は、就役前の2013年11月上旬に初めて「オーニクス」を発射しています。
[原子力潜水艦セヴェロドヴィンスクは超音速対艦ミサイル「オーニクス」を発射した]
22350フリゲート「アドミラル・カサトノフ」(2020年7月21日就役)は、就役前の2019年11月29日に「オーニクス」を有翼ミサイル「カリブル」(対艦型)と同時に発射しています。
[ロシア海軍の最新鋭フリゲート"アドミラル・カサトノフ"は白海で対艦ミサイル"オーニクス"と"カリブル"を同時に発射した]
20385コルベット「グレミャーシチー」(2020年12月29日就役)も、就役前の2019年12月9日に「オーニクス」を有翼ミサイル「カリブル」(対艦型)と同時に発射しました。
[ロシア海軍太平洋艦隊の為の最新鋭コルベット"グレミャーシチー"は白海で対艦ミサイル"カリブル"と"オーニクス"を発射した]
「オーニクス」は、近代化改装されるプロジェクト11442重原子力ロケット巡洋艦、プロジェクト949A原子力水中巡洋艦にも搭載されます。
[近代化改装される重原子力ロケット巡洋艦アドミラル・ナヒーモフはロシア海軍の新世代水上艦と同じ兵装を得る]
[近代化改装される原子力水中巡洋艦イルクーツクは2023年末にロシア海軍太平洋艦隊へ復帰する]
「オーニクス」の水上発射型は、対地/対艦ミサイル「カリブル」と共用の汎用ミサイル垂直発射機3S-14UKSKから発射されます。
[汎用ミサイル垂直発射機3S-14UKSK]
「オーニクス」の地上発射型である「バスチオン」は、2009年以降にロシア海軍の各艦隊(黒海艦隊、バルト艦隊、北方艦隊、太平洋艦隊)へ配備されています。
最近(2022年12月初頭)にはクリル群島(千島列島)北部のパラムシル島(幌筵島)へ配備されました。
[クリル群島(千島列島)のパラムシル島(幌筵島)へロシア海軍太平洋艦隊の超音速地対艦ミサイル「バスチオン」が配備された]
「バスチオン」は、2016年11月15日にシリア領内のテロ組織を攻撃しています。
これが「オーニクス」系列ミサイルの初の実戦での使用例です。
[ロシア海軍黒海艦隊の最新警備艦アドミラル・グリゴロヴィチはシリア領内のテロ組織へ巡航ミサイルを発射した]
2022年2月下旬に始まったロシア連邦軍の『ウクライナ特殊軍事作戦』でも、何度か「バスチオン」がウクライナの地上目標へ使用されています。
[ロシア海軍黒海艦隊は『ウクライナ特殊軍事作戦』において超音速沿岸ミサイル「バスチオン」をオデッサ州へ発射した]
[ロシア海軍黒海艦隊は『ウクライナ特殊軍事作戦』においてムイコラーイウへ超音速ミサイル「オーニクス」を発射した]
[ロシア海軍黒海艦隊は『ウクライナ特殊軍事作戦』においてシャフタルスコエのウクライナ軍部隊本部を超音速ミサイル「バスチオン」(オーニクス)で破壊した]
[ロシア海軍黒海艦隊は『ウクライナ特殊軍事作戦』においてウクライナ軍燃料貯蔵所へ超音速ミサイル「バスチオン」(オーニクス)を発射した]
[ロシア海軍黒海艦隊はオデッサ近郊のウクライナ軍訓練センターへ超音速ミサイル「バスチオン」(オーニクス)を発射した]
[ロシア海軍黒海艦隊の超音速ミサイル「オーニクス」はオデッサ州のウクライナ軍地対空ミサイルを破壊した]
「オーニクス」の製造数は殆ど公表された事は有りませんが、2016年7月~9月の3ヶ月間には、巡航ミサイル「カリブル」と合わせて100基以上が製造されました。
[ロシア海軍は2016年7月-9月に100基以上の巡航ミサイル"カリブル"及び超音速対艦ミサイル"オーニクス"を受領した]
2019年には55基が製造されました。
[ロシア海軍は2019年に55基の超音速対艦ミサイル"オーニクス"を受領する]
巡航ミサイル「カリブル」(2019年の時点で月産16基程度)より製造数は少ないようです。
2022年8月16日、モスクワ州クビンカの『愛国者公園』で開催されている国際軍事技術フォーラム『アルミヤ-2022』「オーニクス」製造契約が製造社である科学生産合同『機械製造』へ委託されました。
[ロシア海軍の超音速対艦ミサイル「オーニクス」の製造契約は国際軍事技術フォーラム『アルミヤ-2022』で委託された]

この契約により、1年間に数十基の「オーニクス」が製造されます。
[ロシア海軍の超音速対艦ミサイル「オーニクス」は1年間に数十基製造される]
2019年が年間55基でしたから、おそらくは今回の契約もこれに近い数字(50基程度)でしょう。
「オーニクス」の改良も進められており、軍備採用から10年以上経過した2016年初頭までに科学生産合同『機械製造』はソフトウェア面での改良を行ないました。
[ロシア海軍の超音速対艦ミサイル"オーニクス"は近代化される]
科学生産合同『機械製造』は、「オーニクス」の更なる改良を進めています。
[ロシア海軍の超音速対艦ミサイル"オーニクス"は更に改良される]
[ロシア海軍の為の超音速打撃ミサイル"オーニクス-M"の開発は進められている]
これにより射程距離は1000kmまで増大します。
元々の「オーニクス」(ヤーホント)の射程距離300kmの3倍以上というのは一見無理が有るように思えますが、そもそも、「オーニクス」(ヤーホント)の射程距離は技術的理由ではなく、政治的理由(ミサイル技術管理レジームにより、最大射程300kmを超えるミサイルは外国へ輸出できない)により決められたものです。
輸出を考慮せず、自国(ロシア海軍)だけで使うのならば、射程を300kmに抑える必要は無いわけです。
「オーニクス」の次に科学生産合同『機械製造』が開発した[極超音速対艦ミサイル「ツィルコン」]は、2022年5月28日の発射試験で「約1000km」(実際にはおそらく700~800km程度)離れた海上目標へ命中しているので、「ツィルコン」よりも速度が遅い(半分以下)「オーニクス」の射程を「1000km」に伸ばす事は技術面でも非現実的とは言えません。
[ロシア海軍のフリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」、距離約1000kmの海上標的へ極超音速対艦ミサイル「ツィルコン」を発射(2022年5月28日)]
このような長射程を生かすには、最近に本格的な運用を開始した宇宙海洋偵察システム「リアナ」との連携が必要不可欠です。
[宇宙海洋偵察システム「リアナ」は本格的な運用を開始する]
別の見方をすれば、「リアナ」の運用が始まったからこそ、射程を1000kmに伸ばす事が名実ともに可能になったと言えます。
照準も誘導も無く、ただ1000km飛ばすだけならば、これまでにも出来たでしょう。
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